「年金なんてもらえるか分からない」
「年金なんてあてにならない」
そんな意見を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか?
ここでいう年金は、老後に受け取る『老齢年金』の事をいい、一般的に、年金について語られる時は、『老齢年金』にスポットがあたりがちです。
ですが、私たちが加入している年金には、老齢年金の他、障害を負って生活に制限ができたときのリスクに備える『障害年金』、配偶者が亡くなった時のリスクに備える『遺族年金』という制度があります。
年金は、これらのリスクに備えるものなので、いわば保険です。
保険なので、保険料を納めていなければ、受け取る権利がなくなる可能性があるのです。
「年金なんてもらえるか分からない」
「あてにならない」
という言葉だけを鵜呑みにして、“納めない”という選択をした夫に、もしものことがあったら、妻と子の生活はどうなるのか?
実例を通して見ていきましょう。
もくじ
【年金未納】保障はどうなる?
Aさんは、現在41歳。
32歳の妻と、子供が2人(4歳・0歳)います。
Aさんは、専門学校卒業後に某自動車販売会社に就職。20歳から25歳までの5年間(計66か月間)、厚生年金保険加入者でした。
その後、独立し、厚生年金加入者から国民年金加入者(自営業)へ。
実はAさんは、その時から16年間、年金を納めていませんでした。
Aさんにもしものことがあった場合、妻と子の生活保障はどうなるのか考えてみましょう。
遺族年金
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、亡くなった人の年金の納付状況によって、どちらか一方もしくは両方受け取ることができます。
遺族基礎年金はいくら?
遺族基礎年金は、国民年金の加入者が要件を満たしている時に、「子」または「子のある配偶者」が受け取ることが出来るものです。
国民年金は、20歳以上の国民全員が加入している(国民皆保険)ので、遺族基礎年金は、要件を満たしていれば受け取ることができます。
遺族基礎年金の受給要件は、下記です。
被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき。(ただし、死亡した者について、死亡日の前日において保険料納付済期間(保険料免除期間を含む。)が加入期間の3分の2以上あること。)
引用:日本年金機構
現役世代は加入期間の3分の2以上の保険料納付済期間が必要とのことですが、Aさんの場合は、20歳から41歳の21年間のうち、16年間が未納なので、加入期間の3分の2以上という条件を満たしていません。
つまり、遺族基礎年金を受け取ることが出来ないということです。
遺族厚生年金はいくら?
遺族厚生年金は、厚生年金の加入者(会社員・公務員等)が要件を満たしているときに、亡くなった人によって生計を維持されていた遺族が受け取ることが出来るものです。
遺族厚生年金の受給要件は、下記です。
①被保険者が死亡したとき、または被保険者期間中の傷病がもとで初診の日から5年以内に死亡したとき。
②老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき。
③1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる者が死亡したとき。引用:日本年金機構
Aさんの場合、現在自営業で、厚生年金の加入者ではないので①の要件は満たしておらず、厚生年金加入期間は20歳~25歳の5年間だけなので、②の条件も満たしていません。
つまり、遺族厚生年金も受け取ることが出来ないのです。
【Aさんが亡くなった時の保障は0円?!】
受給要件を満たしていないAさんに、もしものことがあった時、妻と子が受給できる遺族年金がないことが分かりました。
公的保険での保障がない分、民間の保険に多めに加入して、保障を得るほかありません。
年金を払っていたらいくらの保障があったのか試算
仮に、Aさんが未納という選択をせず年金を払っていたら、Aさんの妻と子は、Aさんにもしもの時、いくらもらえたのか試算してみましょう。
遺族基礎年金の額は、
子の加算
第1子・第2子 各224,700円
第3子以降 各74,900円
子とは、18歳に到達年度の末日(3月31日)を経過していない子をいいますから、Aさんの子2人がそれぞれ18歳になるまでは、子の加算が1人あたり224,700円あるということです。
Aさんの第1子は現在4歳で、18歳になるまで14年間、第2子は現在0歳で、18歳になるまで18年間あります。
つまり、最初の14年間は、
780,900円+224,700×2=1,230,300円
受給でき、
残りの4年間は、
780,900円+224,700=1,005,600円を受給できます。
仮に、今、Aさんが亡くなった場合の遺族基礎年金は、
1,230,300円×14年間=17,224,200円
1,005,600円×4年間=4,022,400円
合計21,246,600円
まとめ
「年金なんてもらえるか分からない」
「年金なんてあてにならない」
という言葉を鵜呑みにして、年金を払わない選択をすると、長生きリスクへの保障(老齢年金)や、亡くなった時の保障、障害を負った時の保障も全て失います。
確かに、今後も少子高齢化が進み、現役世代によって支えられている年金制度は弱くなっていくことが考えられますね。
ですが、制度的に、年金が全くもらえなくなるということは考えにくいです。
いつまで生きるかは誰にも分かりませんから、払った分が戻ってくる保障はありません。
しかし、死ぬまで受け取ることが出来る老齢年金は、長生きした場合には強い味方になるでしょう。
また、もしもの時の保障があることは大事な人を守ることにもなります。
納税の義務を果たすためだけではなく、国民年金保険は払っていた方がいいでしょう。